書道家 飯田峰空 喜怒哀楽

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2018/03/02

前回、<勝>を紹介したので、対になる<負>をもじがたりします。

 

勝の字は、その言葉の強さと勢いで何とかなってしまいがちですが、
負の、この文字こそ、心を込めて書きたくなります。

やはりこの文字からは、負けた人が思い浮かびます。
最初の二画が、うなだれて視線が下がっている様子を思いおこさせます。
だから、つい一画目は少し投げ出すように書いてしまいます。
掬いあげるように先端をあげるのではなく、
気持ちの整理がつかずに吐き出すような印象です。

でも、下の貝の部分は、どっしりと重心を均等に書きます。
ここはぐらつきません。
鍛えられた体幹が据わっているイメージです。

 

何かの頂点を目指すところまで達している人に、
そこまで大差はないと思うのです。
実力を出せたか出せなかったかの違いで、
積み上げてきたものは確かにある。
でも、勝負はついていて、その事実を第一波で受け止めた時の
悲しさとか悔しさがそこにはある。
そんな二つの要素を、この文字に感じてしまいます。